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ママが不眠症になった。
原因は、癌が見つかったからだ。

65年間大きな病気をしたことがなく、
また医者嫌いのママは自分の病状の説明に怯えきった。

パートの仕事はすぐやめたが
ママは人生に絶望してしまっていた。

衣服を処分し、
手紙やアルバムの整理をはじめながら
「一年に一度くらい検診を受けておけばよかった」
と何度も繰り返した。

そして、
22時は眠れず不規則にうたた寝ばかりしている。
睡眠導入剤も処方してもらったが、
本人は「眠った気がしない」と不満げだ。

わしは
不眠症解消の本を何冊も買い求め、
軽い運動をすすめ、音楽をきかせた。

香を焚き、温かいミルクをのませたり
瞑想をさせ、ツボ押しやマッサージもやってみた…

何をやってもこれといって効果はなかったけれど、
ママの精神状態は深刻なほど落ち込んでいるのだから
根気よく続けなければ…とあきらめなかった。

こちらまで不眠症になりそうな日々が続くなか、
わしは3日ほど出張しなくてはいけなくなった。

寝たきりの病人ではないから身の回りの心配はいらないが、
24時間に一度は連絡をいれたい。
22時は遅くまで仕事があったので、
午前中早くに電話をかけることにした。

ふだん電話などしないものだから新鮮だったのか
ママはいろいろと話しだした。

けれど、
わしは疲れていて相槌をうつのがやっとであった。
そうやって120分ほどママがしゃべるのをただ聞いていた。

翌日、また同じ時間に電話をかけると、
ママはすがすがしい声で「昨日ね、よく眠れたわ」と言った。

「たくさん話を聞いてもらって気がらくになったから」
返す言葉に詰まったわしの様子にママは気づかず、
嬉しそうにしゃべりだした。